「芋売る人々」の取材で出会った、「超蜜やきいもpuku puku」の須藤さんと「笑芋寿」のスミちゃん。販売スタイルもバックグラウンドも違うお二人に、焼き芋屋として日々考えていることを語っていただきました。″焼き芋哲人″須藤さんと″焼き芋芸人″スミちゃんの夢の対談、どうぞお楽しみください!(取材日:2021年7月上旬、聞き手:『イモヅル』発行人 藤田一樹)

〈プロフィール〉
須藤 武士さん(写真右)
2012年、品川区西大井の自宅ガレージで「超蜜やきいもpuku puku」をオープン。焼き芋のイベントにも多数出店。2021年、家電メーカー・ライソン株式会社が発売した「超蜜やきいもトースター」を監修。同年、うなぎパイの有限会社春華堂と業務契約、焼き芋に関する技術を春華堂に提供。また、同年11月には2号店となる横浜磯子店がオープン。
https://pukupuku-yakiimo.stores.jp/
スミちゃん(写真左)
お笑い芸人。2012年~2022年1月までコンビ「がじゅまる」として活動。2020年8月、岐阜県のつぼ焼き芋専門店「幸神」に弟子入りし、同年10月につぼ焼き芋屋「笑芋寿(わらいもことぶき)」を開業。都内と埼玉県を中心に出張販売を行っている。
https://twitter.com/waraimokotobuki

ただ、芋を焼いていたい


―スミちゃんは今日、この対談の前に焼き芋を売ってきたんですよね。お疲れ様でした。

スミ 朝起きたとき雨だったので中止にするつもりだったんですけど、11時くらいに止んだので、少しだけ。店舗があれば雨でも営業できるし(注:笑芋寿は店舗を持たず、商店などの軒先に出張して販売するスタイル)、焼くだけ焼いて冷凍して、ロスが出ないようにできるんですけど。焼かずにそのまま置いておくと、花が咲いちゃったりするし。でも、味は意外と落ちないんですよね。

須藤 生芋を貯蔵しておいて、一番甘くなるのは5~6月くらいと言われています。そこから先はどんどん水分が抜けてスカスカになって、蜜が出にくくなります。貯蔵は本当に難しくて、みんな苦労しますね。

スミ そういえば、須藤さんのお店は高校時代の同級生が手伝ってくれているって聞きましたけど、なんでそんな人が現れるんですか?

須藤 イケメンだから(笑)。じゃなくて、僕は本当にできないことが多くて、すぐ人に頼っちゃうんですよ。がんばるんですよ?がんばるんですけど、至らない部分を周りの人に補助してもらう感じです。あと、僕は販売ができない。

スミ 販売って、接客のことですか? しゃべるの好きそうなのに。

須藤 しゃべるのは好きなんですよ。お客さんと2~3時間話したりする。

スミ え?どういうこと?

須藤 「どんな焼き芋が好きですか?」から始まって、「どこから来たんですか?」「あのお店の焼き芋おいしいですよね」「あ、ちょっと座ります?」って、お客さんと普通に世間話しちゃいます。人によってはそこから身の上話になって、気づいたら何も買ってない、とか。

スミ 僕も焼き芋やってる間、しゃべっていたいので、めっちゃわかります。隣に誰かいてほしい。

須藤 そもそも売る気がないので、売るのはもう、めんどくさいんですよ。

スミ 僕も正直、お芋を焼いていたいだけなんですよ。焼いて、しゃべって、いいのできたぞー、って。それで十分。もちろん買ってもらえたらありがたいんですけど。

須藤 僕の中ではこれは「焼き芋を甘くする」という研究なので、僕の研究結果を見てくれますか?さらにお金も出してくれるんですか?ありがとう、という感じ。だから最上のものを出そうという気持ちもないし、営業しながらもどんどん実験しちゃうから、はっきり言って、外れちゃうときもある。その場合は「いつもと違う味になっちゃったけど、それでもよかったら」って安くしたりします。

スミ でも、俺は「広く浅く」タイプなんで、須藤さんみたいに一人のお客さんと何時間もしゃべれるかな。話題が尽きちゃいそう。

須藤 多分、うちの常連になる人って、普段はそんなにしゃべらないけど本当はしゃべりたい人が多いんですよ。例えば、地方から出てきたばかりで友達が少ない、とか。それこそ身の上話から何から、僕は本当に興味を持って適当に聞くので。

―「興味を持って適当に聞く」っていいですね(笑)。

須藤 興味はあるけど、なんていうか、そこまで入り込まない。だから重い話をされても平気。スミちゃんの焼き芋にはまる人にも、やっぱり色というか、うちとは違う気質みたいなものがあると思いますけどね。

スミ でも、2時間そこに座ってしゃべれるような関係性って、めちゃくちゃいいですよね。俺の場合、お店さんに間借りしてるから、なかなか長時間話せないっていうのもありますけど。子どもはいっぱい来るんですよ。ジャマだから「早く帰りなよ!」って言うんですけど、全然帰らない(笑)。

須藤 それはやっぱりスミちゃんのキャラクターですよ。華があるし、根が陽気だから、そういう人が集まってくる。

スミ 俺も陰湿ですよ?でもやっぱり、店主の雰囲気に合った人が寄ってくるんですかね。

須藤 人のお店に行くと、お客さんの雰囲気とか、接客の仕方とかを見て「この人はこうなんだ」ってわかるから楽しいですよね。

スミ 俺ももっとしゃべりたいなー。子どもとしゃべっても「今日学校楽しかった?」「うん」「そうか」で終わっちゃうんですよ。

須藤 それでも、子どもたちは「スミちゃんのとこ行こうぜ!」って来るわけですよね。それは地域性にも合ってるんだろうし、スミちゃんにしかできないことですよ。

理想の焼き芋屋像とは


―puku pukuさんは、テレビでもよく取り上げられていますよね。

須藤 テレビでたくさん紹介されて、それでお客さんが増えるのも最初は複雑でしたけど、普通の住宅街にあるお店がテレビに出るっていう、そのコントラストにひっかかって来てくれる面もあるんじゃないかな。スミちゃんも、焼き芋屋さんと芸人さんっていうコントラストがあるじゃないですか。ファンからすれば、焼き芋を買いに来れば会えるし、スミちゃんが焼いた焼き芋も食べられる。AKBだって、握手はできても手料理は食べられないですよ。

スミ 確かに!俺、AKB以上のことをしてるのか。早く売れてーな、ちくしょう(笑)。

須藤 スミちゃんのファンだから来る、って人もいるでしょ?それはすごい強みですよ。

スミ いますよ、ありがたいことに。それこそ芸人としてテレビに出て、それで焼き芋の注文も定期的に入るようになればいいんですけど、どうやって売り上げを上げていけばいいのかわからないんですよね。焼き芋をうまく焼くことしか頭にないんで。

須藤 焼き芋屋さんって、みんな自分なりのゴールがあると思うんですよ。自分の中で最高の焼き芋があって、みんなそれを目指してるんだけど、それが千差万別、一人ひとり違うから面白いんですよね。それぞれ思い描く焼き芋が、落ち葉で焼いた焼き芋だったり、軽トラを呼び止めて買った石焼き芋だったり、初めて食べた甘い壺焼き芋だったり。ただ焼くだけっていうシンプルなものだけど、原体験も違えば印象も違う。僕の場合、目指す焼き芋というのは特にないけど、「甘くする」ことだけにこだわり続ければ、ゴールの見えない楽しい毎日じゃないですか。「今はこれくらいだけど、もっとできるんじゃないか」って、ゴールがなくなる。日々取り組んでいけるライフワークみたいな楽しさでやってるんですよね。だからもう究極、おいしいかどうかも関係ない。「甘い」って言われたらうれしいけど「おいしい」って言われても「はあ、そうすか」って(笑)。そもそも「甘い」っていう感覚も、そのものが甘いのと、甘く感じるのとでは違うし、難しいんですよね。一筋縄ではいかない。それを考えていったらもう、終わりなんてないですね。

 

スミ あの……甘いのにこだわるのは、幼少期にあんまり甘いもの食べてこなかったとか?

須藤 いや、甘いものは好きじゃないんですよ。中庸なものが好きなので。ごめんなさいね、ひねくれてて。

スミ 僕は、お笑いと焼き芋のハイブリットでいきたい、というのはありますね。芸人を10年以上やってますが、2年目くらいのときから、自分だけのオリジナルの何かが欲しい、と思うようになったんです。

須藤 それは、例えば「家電芸人」みたいな、芸人としての自分を売るためのジャンルやカテゴリーが欲しかったということですか?

スミ 売るため……にも結局つながるんですが、それよりも自分が自信を持てるもの、得意なものが何もない、というコンプレックスがずっとあって。パーソナルな部分で何か欲しい、と早い段階から思っていたけど、具体的には何もないまま、ネタを作って、ライブに出て、というのを繰り返していました。でもこのルーティーンを続けるのは10年目まで、と自分の中で決めていて、10年目の2020年に「芸人としてどうやって生きようか」と模索し始めました。まず考えたのが、キャンピングカーで全国を回りながらお笑いをやること。これで稼いで生計を立てられるのなら、売れようが売れまいがどうでもいいと思って。それを「やります」と公にしようと思った矢先に、ある人から「今、石焼き芋がアツい」という話をされたんですよ。それを聞いて、石焼き芋って車だよな、車で全国を回れるよな、石焼き芋屋をやりながら全国を回ってお笑いをやったら面白いんじゃないか?……と。僕自身、焼き芋が好きだったというのもあって、「これだ!」って一気にスイッチが入ったんですよね。それで調べ始めて、壺焼き芋という製法と、それを専門にやっている岐阜県の「幸神」さんを見つけて即修行に行き、2020年10月にギリギリの道具だけを引っ提げて開業しました。一貫して考えているのは、お笑いで人を救いたい、僕のネタを見て笑ってほしい、ということ。なんで芸人をやっているかといったら、結局そこなんですよ。

須藤 笑いは大事ですよね。焼き芋屋は芋を焼いて売れば焼き芋屋だけど、お笑いの場合、笑うのは聴衆のほうじゃないですか。自分ひとりじゃ完結しない。

「個人主義」と「ヒーロー」

スミ あと、ちょっと社会的な話になりますけど、虐待を受けた子どもとか、苦しい環境にいる人たちのところに行ってお笑いをやって、一助になれれば、とも思っています。ただ、空腹の子どもにお笑いを見せて、心は満たされるかもしれないけど、腹は満たされるのかな、と。そう考えたときに焼き芋はまさにうってつけで、焼き芋で腹を満たして、お笑いで心を満たして長生きしてください、ということで、店の名前を「笑芋寿」にしました。
それで実際、こども食堂で焼き芋を無料で配ったりしたこともあったんですけど、やっぱり利益面でも成り立つようにしておかないと続かない。まずはちゃんと売り上げを出して、お金を回せるようになってからでないと、そういう活動はできないと、この9か月間で思いました。でもそこがゴールではなく、ネタをやる、お笑いをやる焼き芋屋さんでありたいです。最終的にはお笑いライブができる店を持ちつつ、車で全国を回るのが理想ですけど、そのためにはお金が必要だという現実問題もあって、そのギャップを感じながら生きています。

須藤 偉いですね、大きい目標があって。僕の場合は本当に個人主義で、僕は僕、人は人。個人で完結しているので、うちの焼き芋を食べて、喜んでくれたらもちろんうれしいけど、「まずい」と思われたとしても関係ない。本当にそういう考えなので、スミちゃんみたいな人には、ちょっと憧れます。

スミ おこがましい気もしますよね。実力もないのにヒーロー気取りで。ヒーローっぽいことしたいんですよ。

―ヒーローといえば、最初にスミちゃんに会ったときに、印象的だったことがあります。そのときの出店場所はスーパーの前だったんですけど、風が強くて、店の前に停めてあるお客さんの自転車が、何台もバタバタ倒れるんです。そうするとスミちゃんが、自分の客でも知り合いでもない人の自転車を、さっと起こしに行くんです。何の迷いもなく。ああいうときにさっと体が動く人って、なかなかいないですよ。

須藤 かっこいいー。

スミ 俺そんなことしました!?全然覚えてない……。

須藤 僕は、そういうときに衝動的に動けないタイプです。自分で考えを「こう」って決めて、ルールづけをしないと動けない。自分の声を聞いて、その声に素直になろうって決めないと。だから本当に衝動的に動ける、いいことができるというのはすごくうらやましいですよ。衝動的に盗み食いするとかならできますけど(笑)。

横のつながりがほしい

スミ 須藤さんが(『イモヅル』Vol.6のインタビューで)「サツマイモには地域ごとの文化があるから、各地の文化が横につながったら面白い」という話をされていましたよね。あれを読んで、確かにそうだな、と思って、「横のつながり」というところにすごく共感しました。

須藤 横につながれるきっかけの一つが、イベントなんですよね。例えば「品川やきいもテラス」(注:2017年から品川駅近くで開催されている焼き芋イベント)は過酷なんです。人は殺到するし、1月の終わりから2月にかけての真冬だからめちゃくちゃ寒い。会場の公園が海側にあって、ビル風がおそろしく吹くので、焼きにくいうえ、どんどん体力が奪われていく。しかも一週間やるから、最初に参加した年はペースがつかめなくて、眠れないし食べられない。けど、それを焼き芋屋さんみんなで助け合って、どこかの店のテントが風で飛ばされれば押さえに行ったり、お互いにアドバイスし合ったり。さまざまなプレッシャーと戦いながら一週間を過ごすので、そこのつながりはすごく強いんですよね。お客さんだって全国から集まって、2時間くらい並んだりするし。もう狂乱ですよ。それで話題になって、焼き芋ブームにつながっていくんですよ。

最近、サツマイモのイベントや催事が増えましたよね。

須藤 サツマイモは集客力がある、ってことが「品川やきいもテラス」で証明されたんですね。僕がイベントに出たときに重視するのは、一番はイベントを盛り上げること、その次はうちの店のスタッフさんに楽しんでもらうことです。なので、イベント中にスタッフさんが他の店で焼き芋を買うときは、僕が全部お金を出します。それで、うちの店に来たお客さんに「あのお店おすすめですよ」なんて教えてあげれば、イベント自体が盛り上がる。だからもう、片っ端から全部買おうって。スタッフさんが入れ替わって「私あれ食べてない」ってなったら「そうかそうか、じゃあ買ってくる」って。イベントでの僕の仕事は、主に行列に並ぶことです。

スミ なんか、須藤さんのまわりには本当に人がいっぱいいますね。

須藤 やっぱり、楽しく働くにはカツカツじゃダメじゃないですか。人員にも余裕をもたせなきゃいけないから、人件費もかかる。だから、たくさん売っても、儲けなんて「あれ?」みたいな感じですよ。で、まわりからまた怒られる(笑)。

 


 
 「焼き芋を焼いて売る」というシンプルな商売ながら、目指す姿も、人との関わり方もそれぞれ違う。だけど、おいしい焼き芋で人を幸せにしているところは同じで、人間性もどこか似ている。そんなところが垣間見られた貴重な対談でした。
 焼き芋にも人柄にも、蜜と魅力があふれまくっているお二人を、「イモヅル」はこれからも応援しています! 
 須藤さん、スミちゃん、ありがとうございました!