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talking book 片山 昌美さん

受け継いだ芋ようかんの味 
 東武東上線・朝霞駅近くの住宅街にあるtalking bookは、2020年1月にオープンした、芋ようかんと本のお店だ。
 このお店の芋ようかんは、片山さんのご主人の実家が営む和菓子屋・つる屋(愛知県)の味を受け継いだものだ。つる屋の芋ようかんが大好きな片山さんは「この味をたくさんの人に味わってほしい」と考えて作り方を教わり、会社を辞めて店を開いた。しかし初めての飲食業、芋ようかん作りはもちろん、原料となるサツマイモの仕入れからお店の物件探し、価格設定、パッケージまで、試行錯誤の連続だったそうだ。

 片山さん曰く、材料はサツマイモ、砂糖、塩、そして「愛情(笑)」のみ。市販の芋ようかんは寒天などで固めているものが多いが、この店では基本的には寒天を使わず、柔らかさが残っているのが特徴だ。サツマイモは、埼玉県三芳町の高橋農園さんから仕入れたベニアズマを使用。同じ畑でとれた芋でも、色や甘さ、柔らかさには個体差があるので、芋の状態や季節によって蒸す時間や砂糖の量、皮をむく厚さなどを微妙に変えているという。
 実際にいただいてみると、サツマイモそのままに近い、ホロッと柔らかな食感。ペースト化されすぎず、適度に粒々が残っているのもいい。甘さもほどよく、子どもやお年寄りに好評というのもわかる。
 現在は芋ようかんのほか、サツマイモに狭山産の抹茶を混ぜて丸めた「いもちゃまる」や、軒先の壺で焼いた壺焼き芋も販売している。

本棚も必見 
 かつて出版業界で働いていた片山さんは、芋だけでなく「本売る人」でもある。この店に来たら、軒先の均一棚も含め、6台ある本棚もじっくり見てほしい。
 売られている本の多くは古本で、もとは片山さんとご主人の蔵書だったというが、日本文学からSF、人文、芸術まで、その充実ぶりに驚く。「家にはまだまだいっぱいあって、出し切れていません」というので、さらに驚く。
 絵本は新刊で仕入れている。当初は、街の書店ではあまり扱っていないようなラインナップにするつもりだったが、お客さんの要望に応えていくうち、次第に定番の絵本が増えてきたという。

みんなが外を歩いてる
 コロナの影響についても聞いてみた。
「(一回目の)緊急事態宣言が出た頃はまだオープンしたばかりだったので、ここでお店を閉めてしまったら、もうお客さんが来てくれないんじゃないかと思って、迷った末、通常営業していました。そしたら、お店も公園も図書館もどこもやっていないから、みんなやることがなくて、ひたすら外を歩いてるんですよ。そのときにフラッと入ってきてくれるお客さんがけっこういて、売上が大きく落ちるということはなかったです」
 とはいえ、当初予定していたイートインは今も開始できずにいるという。店内で芋ようかんとコーヒーをいただきながら、本を読み、片山さんとの会話を楽しむことができる日を、心待ちにしている。

 ところで、talking bookという店名は、片山さんが愛するスティーヴィー・ワンダーのアルバムタイトルに由来しているそうだ。店内に飾られたジャケットを眺めていると、片山さんが「かけましょうか」といって流してくれた。懐かしいような、でも初めてのような心地よさ。このお店の雰囲気にぴったりだった。


おいもとほん talking book
埼玉県朝霞市溝沼1-4-17
営業時間:11:00-13:00 14:30-18:00
定休日:日・月 ※不定休あり
https://talkingbook.theshop.jp/

 

 

 

※情報は『イモヅル』Vol.6掲載時(2021年2月)のものです。
営業時間など最新の情報については各店舗のホームページ等でご確認ください。